四十肩,五十肩に対する自分で出来る根本的な治し方

日常生活で「肩が挙がらない,挙げると痛い」「後ろに回らない」「寝る時に痛い」など様々な場面で肩の痛みを感じられていると思います.

整形外科に行くと注射,湿布,痛み止め,リハビリを処方されると思います.

リハビリを経験されている方は指導を受けている方もおられるかも分かりませんが,五十肩や四十肩の痛みは肩に問題があるのではなく,不良姿勢による脊柱や肩甲骨のアライメント不良による問題がほとんどです

そのため肩に対する治療のみでは,痛みが改善しても再発したり,反対側の肩が痛くなったりする可能性があります.

以上の事から五十肩に対する治療は,姿勢の是正や肩以外(肩甲骨や脊柱など)の改善が必要になります.

今回は腱板損傷上腕二頭筋長頭腱炎,肩峰下滑液包炎と診断された方に多い問題に対してのアプローチ方法をお伝えしてしたいと思います.

肩関節とは

肩関節は複数の関節の複合体です.

例えば,手を上に挙げる動作だけでもたくさんの関節の動きが必要になります.

肩関節 上記に示したのは肩関節の動きに必要な関節です.

他にもこれらの関節を支える,脊柱やそれ以下の関節(骨盤周辺の関節)も関係します.

特に肩甲骨の上方回旋という動きは非常に重要です.

肩挙上に伴う肩甲胸郭関節の動き

肩甲骨は唯一鎖骨と物理的な関節を作っているため鎖骨の可動性も肩甲骨への動きに直接関わります.

細かく説明すると下記のような関節の動きになります.

手を挙げる動作では肩甲骨の上方回旋の動きに加えて肩甲骨の後傾も必要です.

肩挙上に伴う肩複合体の動き

なぜ不良姿勢が肩に負担がかかるのか

肩関節(肩甲上腕関節)の特徴として,人体で一番可動域が大きい関節です.

一般的な関節の動きは関節包(関節を包んでいる膜)や靭帯(硬い組織)によって安定性を確保していますが,肩関節は可動域を大きくするために,関節包や靭帯が緩くなっています.

そのため,細かい筋肉が色々な方向から牽引し,色々な運動に対応しなければならない構造になっています.

つまり,たくさんの筋肉がチームワークを作って肩の動きを制動しています.

不良姿勢が続くと,働きやすい筋肉働きにくい筋肉が出てきます

そうなると筋肉のチームワークが乱れ,負担のかかった部分に炎症が起こると痛みへとつながります.

 

上肢の挙上(手を上げる動作や顔の前付近の動作)では肩甲骨の上方回旋の動きが必要です.

肩甲骨を上方回旋させる筋肉には以下のものがあります.

上方回旋に関わる筋肉

特に僧帽筋下部線維前鋸筋の弱化が問題となります.

逆に上肢挙上に拮抗した下方回旋に働く筋肉としては以下のような筋肉があります.

下方回旋に働く筋肉が硬くなると,手を上げる動作では邪魔になる事が多いです,

肩甲骨下方回旋筋

僧帽筋下部線維と前鋸筋の弱化肩甲挙筋,小胸筋が硬くなる原因のほとんどが猫背姿勢にあります.

以下の画像を参照してください.

猫背筋肉の特徴

一般的に起こりやすい不良姿勢(猫背姿勢)ではこのように弱化しやすい筋肉や硬くなりやすい筋肉があり,筋肉のアンバランスを引き起こします.

この画像では表記されていませんが,この姿勢では胸椎が後弯し,肩甲骨が外転(前に丸くなる)するため僧帽筋,前鋸筋は弱化し,小胸筋,肩甲挙筋は硬くなります.

猫背姿勢(ストレートネック)の治し方

このような姿勢が続くと肩への負担が大きくなる事がわかります.

上肢挙上正常 上肢挙上異常

①の姿勢(正常)では手を上に挙げる動作に伴って肩甲骨がしっかり後傾し上腕骨を受けられているのがわかります.

②の姿勢(猫背)では手を挙げた時に肩甲骨が後傾せず,負担がかかるのがわかると思います.

こんな人は要注意

  • 座っている事が多い
  • 肩こりや腰痛がある
  • 顔の高さ付近での作業が多い
  • よく姿勢が悪いと言われる
    または自分でも感じている
  • 乳がんの手術をした事がある
  • 運動不足

上記に当てはまる方は猫背姿勢になりやすくなります.

具体的なアプローチ方法

実際に自分で出来るアプローチ方法としましては,ダメージを受けた肩の関節自体へのアプローチ肩関節に負担をかけているそもそもの原因である他の関節(姿勢の是正も含む)に対するアプローチがあります.

肩関節へのアプローチ

肩関節へのアプローチの基本は肩の関節の軸を作る事です.

これが非常に難しいのですが,うまく誘導できれば周辺の筋肉の緊張が緩み,即時的に関節の可動域が向上します.

◆ 棘上筋トレーニング

この運動は筋力トレーニングというより,棘上筋の滑走を促したり関節の軸を作るための感覚トレーニングの要素が非常に重要です.そのため代償動作をしっかり抑えて正しく運動を行ってください.

肩甲上腕関節外転

  • 50回程度を目標にできる範囲で実施してください.
  • 下に示したような代償がほば確実に起こりますので最初は鏡で確認しながら行ってください

棘上筋ExのNG

◆ 内転可動域

この運動は棘上筋のストレッチ棘上筋の滑走を促すために実施します.

肩内転ROM

A).この状態を10秒〜20秒程度持続させる

B).2秒程度を繰り返し10回程度反復させる

A),B)の運動を両方とも実施できるのが理想ですが,「朝A)の運動をして,夜B)の運動する」のようにしても大丈夫です.

この部分が問題になっている場合はしっかり手を閉じられないので鏡で確認しながら,代償が出ない範囲で行ってください.

また,肩甲骨をしっかり持ち上げたまま簡単に手を閉じられる場合はこの部分が問題になっていないのでこの運動はスルーしてください.

 

◆ 肩関節 内外旋

この運動は肩のインナーマッスルをしっかり働かせて関節の軸を作る運動です.

代償動作をしっかり抑えて運動を行ってください.

肩内外旋

  • ゆっくり50回程度を目標に可能な範囲で行ってください.
  • 痛みがある場合は,痛みが出る手前で止めてください.
    写真の半分以下の可動域しか動かなくても大丈夫です.徐々に拡大してきます.

下のような代償を行ってしまうと余計に痛めてしまうので十分注意してください.

肩内外旋NG

その他へのアプローチ

その他へのアプローチの基本的な考えとしては,下の図の「線の破損」を例に考えるとわかりやすいです.

コンセント

線の付け根の部分の破損はこの部分に問題があるのではありません.

○で示した部分が硬く,線が繰り返し動く事で,よく動いてしまう付け根の部分が破損してしまいます.

人体でも同様のことが起こっています.

今回の場合,損した付け根部分が肩関節硬くなっている部分は肩甲骨やそれがついている胸郭になります.

そのため,その他へのアプローチとしては肩甲骨へのアプローチ胸郭へのアプローチを紹介します.

肩甲骨へのアプローチ

◆ 肩甲骨内転運動

肩甲骨内転運動

  • 脇を5秒間開く(開ける範囲)
  • 10回実施
  • みぞおちをしっかり前に突き出すようにする
  • 肩甲骨の内側に力が入っていればOK

肩甲骨内転運動NG

 

胸郭へのアプローチ

◆胸椎伸展運動(パピー)

胸椎伸展運動

  • 出来るだけ力を抜いて②の項目(顎を引いて,みぞおちを下げる)のみ意識する
  • 1分程度持続
  • 息を吐きながらみぞおちを下げる
  • 首からかけたネクタイをピンッと伸ばすようなイメージ

胸椎伸展運動NG

自分で思っている以上に出来ていないこと多いので,

実際に行なっている姿を写真に撮ってもらって確認できればbetter

腰が痛くなる場合はしっかりみぞおちを下げるようにする.

◆ 脊柱回旋運動

脊柱回旋運動

  • しっかり開いたところで深呼吸しながら5秒キープを5回程度
  • 左右実施
  • 朝晩など一日に2回できればOK

 

脊柱回旋運動NG

限界を超えようとせず,今出来る範囲できっちり行なっていくと徐々に可動域が広がってきます.

痛みの出ない範囲で行なってください.

痛みが出ると余計に硬くなったり,二次障害につながります.

◆ ドックキャット

この運動は脊柱全体の柔軟性の向上脊柱周辺の筋肉のバランスを整えるために行います.

ドックキャット

  • 丸める時→息を吐いていくようにする
    反らす時→息が抜けていくようにする
    ※ どちらも息を吐きますがニュアンスが少し違います
  • 3秒かけて丸めて,3秒かけて反らしていくドックキャットNG
  • 基本的には前後の動きは避け,上下の動きを意識する

姿勢の是正

不良姿勢によって硬くなる筋肉や弱化してしまう筋肉があるため,姿勢には注意が必要です.

骨盤と頭部が前に出ないようにしてください.

良い姿勢をずっと続けるのは不可能なので頻繁に意識する事が大事です.

骨盤前方変位

座っている事が多い人は下の写真のような姿勢になりやすいです.

特に座位は骨盤が後傾しやすいので座っている事自体あまりよくないです.

仙骨座り

事務員,車を運転する,PCを使って仕事しているなど座って作業する時間が長い方は以下に試みてください.

  • お尻の位置を下げている時間を増やす
  • 背もたれにもたれすぎない
  • 立って作業する(スティーブジョブズはPCを触る時は絶対立っていた)
  • 椅子をバランスボールに変える

まとめ

  • 手を挙げると痛い人のほとんどが肩甲骨の上方回旋の動きが制限されている
  • 上方回旋の動きを作る筋肉には僧帽筋,前鋸筋などがある
  • 逆に上方回旋を阻害する下方回旋筋には肩甲挙筋(肩こり筋),小胸筋が重要である
  • 下方回旋の動きを作る筋肉は猫背姿勢で硬くなりやすい
  • 座って作業する事が多い人は要注意
  • 肩のリハビリには肩の関節に対するアプローチと肩に負担がかからないようにするそれ以外の部位に対するアプローチがある

参考文献:筋骨格系のキネシオロジー,Donald A.Neumann